江戸川乱歩 『孤島の鬼』 | Pの食卓

江戸川乱歩 『孤島の鬼』

もしも探偵小説という一個の様式を、現代推理小説と区別して使うことが許されるならば、

間違いなく 江戸川乱歩の 『孤島の鬼』 こそ探偵小説の頂点をなす一冊だといえる。


乱歩さんの長編小説は初めて読んだのですが、まさかこれほどとは・・・

全ての作品を読んだわけでも、推理小説として意識的に謎に取り組んだ経験もなく、

「お前に乱歩の何がわかる」 と言われると答えに窮するわけですが、

この探偵小説を読んだ衝撃を伝えたいと思います。


本日、ご紹介いたしますは 江戸川乱歩の 『孤島の鬼』 です。


江戸川 乱歩
孤島の鬼

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蓑浦金之助は会社の同僚木崎初代と熱烈な恋に陥った。彼女は捨てられた子で、先祖の系図帳を持っていたが、先祖がどこの誰ともわからない。ある夜、初代は完全に戸締まりをした自宅で、何者かに心臓を刺されて殺された。恋人を奪われた蓑浦は、探偵趣味の友人、深山木幸吉に調査を依頼するが……! 乱歩の長編代表作。挿絵・竹中英太郎

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中井英夫さんの 『虚無への供物』 へ至る源流を見たかのような気がします

『孤島の鬼』 を読んでいる最中、ずっと中井英夫さんのイメージが頭にありました。

同性愛を作中に盛り込んだこと、登場人物の奇怪さ、事件の怪奇さ、そして文体、

そのどれもが 『虚無への供物』 誕生の秘密に繋がっている気がします。


解説に中井英夫さんの乱歩論があるため、それをご覧になってくだされば、

乱歩の文体の秘密 "悲哀" がいかに稀有なものであるかがわかります。

その悲哀はときとしては変態的な偏愛に傾くこともあり、

また別の機会では艶かしい哀愁を感じさせるものともなる。

中井英夫さんが指摘したように、三島由紀夫の持つ悲哀と等質なのかもしれない。


文体つながりでいえば、江戸川乱歩と泡坂妻夫の文体には、

全く異なるにも関わらず、ある種似たようなものがあるように感じられます。

二人の文体を結びつける要素は 「艶かしさ」 と 「空気感」である気がします。

そしてその二点が強烈な吸引力を発揮し、小説の世界にトップリと漬からせてくれるのでしょう。

その点から、乱歩さんや泡坂さんの作品に非常な愛着を感じています。


なんだか言いたいことがまとまらないので、読後感想文




《読後感想文》


『孤島の鬼』 は他の一般的な推理小説と性質を異にしていると言えます。

ネタバレしない程度に説明するのは難しいものですが、大きく分けて二部構成であり、

主人公にとって最も関わりの深い事件は、小説が半分もいかない前半部で解決される。

残りの半分は、作者の強烈な語りの魅力により成り立つスリラーです。


前半の謎解き(といっても完全に解決されるわけではありませんが)について、

順序が逆ですが、中井英夫さんの 『虚無への供物』 を想起させるようなものでした。

つまり、『虚無への供物』 を読んで、『孤島の鬼』 を想起するということです。

推理小説の中にありながら、現実世界を強烈に意識させられる感覚です。


不可思議な密室、奇妙な人物、そして意外な解決、どれもお腹一杯です。

密室トリック解体時に、作中人物が日本家屋と密室との関係を述べていて、とてもおもしろい。


僕が最も引き付けられた部分は、小説の後半にあります。

乱歩さんが書きたかったこと、『孤島の鬼』 で描写したかったこと、それが凄い…

邪悪という言葉が人に対して使われるならば、この事件の犯人にこそ相応しい

読んでいるだけでしたが、そらおそろしい気持ちになりました。


未読の方、是非とも読んでみていただきたく思います。

これを読まずして二十数年間生きてきたこと、少しもったいなく思いました。


結局、どこがどう良かったか、何も説明できませんでしたが、とにかく良かったのです!

事件のアレとかコレとか!ええー、そういうことだったのね!とか、ナニー!とかとか。

そんな感じで、騒ぎながら読んでいたわけです。ハイ…



探偵小説、ランポスキィ、孤島、奇怪な老人、こういったキーワードに反応したアナタ、買いです!