泡坂妻夫 『乱れからくり』 | Pの食卓

泡坂妻夫 『乱れからくり』

推理小説や探偵小説を読む際、先入観を持たず、まっさらな気持ちで読み始めるのですが、
そういった気持ちで読めない小説もあります。
「どういう話なんだろう?」 「どんな風に楽しませてくれるんだろう?」
「どんな謎があるのかな?」 「きっとすごいからくりがそこにある!」
わくわくした気持ちで読みたくなる、そういった小説に出会うとき、一瞬の幸せを感じます。

今日読んだ 泡坂妻夫さんの 『乱れからくり』 もそういった一冊でした。
この本、とても好きです!

泡坂 妻夫
乱れからくり 日本推理作家協会賞受賞作全集 (33)
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玩具会社の部長馬割朋浩は降ってきた隕石に当たり命を落としてしまう。その争議も終わらぬうちに彼の用事が誤って睡眠薬を飲んで死亡する。さらに死に神に魅入られたように馬割家の人々に連続する不可解な死。一族の秘められた謎とねじ屋敷と呼ばれる同家の庭に作られた巨大迷路に隠された秘密を巡って、男勝りの女流探偵と新米助手の調査が始まる。日本推理作家協会賞受賞作。
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タイトルを見た瞬間から、うわー!これは読みたい!と思ってしまった推理小説
そして、小説裏の紹介文を読み、すっかり心を鷲づかみされてしまいました!
隕石が落ちてきて死んでしまうなんて!こんなに好奇心をくすぐられるものは無い!

作家さんが泡坂さんであるだけでも、四の五の言わず買いなのです。
Bの紹介を受けて探していたのですが、なかなか書店においておらず、
TRICK+TRAP で見つけたとき、脊髄反射で購入いたしました;

内容はこんな感じです。

 女流探偵・宇内舞子の元に一件のつまらない依頼がやってくる。
 その依頼とは、依頼人・馬割朋浩の妻である真棹の身辺調査というものだった。
 舞子は新米助手・勝敏夫を雇い、身辺調査に乗り出すのだが、
 依頼人が隕石によって命を落とす、という奇禍によって依頼は謎めいたものになる。

 謎の依頼人・馬割朋浩を調べて行くと、なにやら怪しげな 「ねじ屋敷」 や、
 その庭に造られた 「五角形の迷路」 などなど、事件は一層謎を増すばかり!
 そして、舞子の鋭い推理に導かれ、次第に明らかとなっていく、巨大なからくり・・・

・・・文字を読む目が先へ先へと進んでしまい、ページをめくる指が止ませんでした!
泡坂さん、長編は初めて読みましたが、改めてほれ込みました・・・

本書で最も興味深い点は、泡坂さんによるカラクリ指南だと思います。
カタカタ鳥(キツツキみたいな玩具)が、木をつつく様にして上から下へと下りていく様子。
そのおもしろさを子供のような純粋な気持ちで謎解き楽しむ姿
Pもカラクリ玩具には興味があり、いつも不思議だなあ、と思いながら楽しんでいたのですが、
この 『乱れからくり』 で機巧を知り、もっともっとおもしろく感じました!

また、そのカラクリ指南のすばらしいところは、カラクリの説明にあるのでは無いです。
『奇術探偵曽我佳城全集』 で推理小説を楽しむ姿勢、手品を楽しむ姿勢を説いた泡坂さん、
『乱れからくり』 ではカラクリの楽しみ方を教えてくれています!
あー、そうやって楽しむと本当に楽しいですよね!っと首が折れるほど頷きました。

マドージョ、ジュモウのビスクドール、斬らずの馬・・・なんか最高におもしろかった;
ジュモウのビスクドールはバッチリ好みに合う造詣でした。
http://www.hoshibld.co.jp/antique.htm
ここのジュモーのビスクドール、シュワンクマイエルの 『アリス』 に出てきたやつみたい。

まだまだカラクリ指南の良さは続きます。

泡坂さんによるカラクリ指南の最良点は、ありがちな薀蓄話になっておらず、
推理小説の本筋と密接に関係した存在になっている点
こんなカラクリが仕掛けてあったのかぁ、と読後も爽やかな気持ちが続きました。
最初から最後まで 「からくり」 のおもしろさを前面に出していたかと思います。

そして、人物の描き方すばらしい限り。
泡坂さんの作品において、女性は特殊な存在として、デリケートに扱われています。
男性がぞんざいに扱われているわけではありませんが、女性に重きが置かれます。
矛盾に満ちた複雑で妙に現実味のある女性像が描かれています。
僕なんかは、そんな女性像に半ば恐怖を感じることもあります。

言いたい事は山ほどあるし、知りたいことは砂丘の砂粒ほどありますが、
とりあえず、最高におもしろかった!ということを強調して終わります。
乱歩の 『孤島の鬼』 を感じさせる迷路も良かったなあ。

未読の方、四の五の言わず買いです
まだまだ泡坂さんの作品がたくさんあると思うと、何だか幸せな気分になってしまう。
P改め泡坂Pでした。 厚川Pが本名です。