三島由紀夫 『金閣寺』 | Pの食卓

三島由紀夫 『金閣寺』

業火に包まれる金閣寺


池と観光客に囲まれて安穏と佇む現在の金閣寺から想像することができようか。

水面に反射する陽光を受けきらきらと暖かい黄金色の光を発する金閣寺。

その金閣寺が、かつて全焼したことがあるなんぞ、一体誰が信じられよう。


昭和25年7月2日、鹿苑寺・金閣が全焼した。

国宝級の木像、仏像、掛軸、経巻、仏教本など全て灰となって燃え尽きた。

放火だった。


犯人は林という21歳の青年であった。

林は生まれつきの吃音であり、貧しい寺の息子であり、
「いづれは金閣の住職に」という母の過大な期待を受けた子どもであり、

そして、不幸なことに、賢しかった。


金閣裏の山で薬物を飲み刃物で腹を刺したにもかかわらず、

林の命は助かってしまった。

逮捕される瞬間、血を流しながらうずくまる彼は何を感じていたのだろう。


本日紹介いたしますは、三島由紀夫 『金閣寺』 です。

三島文学の最高峰と名高い作品が、私の三島デビュウ作でした。


三島 由紀夫
決定版 三島由紀夫全集〈6〉長編小説(6)

まるでドストエーフスキィの 『罪と罰』 に出てくるラスコーリニコフのようだ。

『金閣寺』 の主人公である宿命の子・溝口はそういう人物だ。

生まれながらの劣等感、抑うつされた虚栄心、そして選民思想・・・

思想、まさにこの小説は思想書ともいえる三島由紀夫渾身の一作だと思う。


主人公の持つ鬱々とした感情は決して性欲など下世話なものには転化されず、

美の追求、主人公の思考は必ずこの想念に立ち返っていく。

そして彼の美とは 《金閣寺》 そのものなのであった。


彼がなぜ金閣寺と仲違いすることとなったか、

また彼がなぜ金閣寺に惹かれていったのか、

それらの謎は全て小説 『金閣寺』 の中で明示されている。


ストイックなまでに美を追求した文体。

演劇 『鹿鳴館』 で強烈にミシマを感じさせられたが、

『金閣寺』 で再び圧倒されることとなった。

一生に一度は読まなければならない一冊だと思います。




追記:


私はもともと反・三島由紀夫でありました。

というのも、彼の人生最後の行動が到底許せるものではなかったからです。

文学者は決して武に走ってはならないのです。


クーデターを起こすことは、文学を否定する行動であり、文学者の取るべき行動ではない。

その証拠に、彼が民衆に決起を促した際、誰一人として立ち上がらなかった。

それは彼の思想に問題があったわけではなく、

方法が完全に間違っていたことを如実に表している。


そんなこんなで私は三島由紀夫を憎んでいましたが、

先日見た演劇 『鹿鳴館』 でついにその洗礼を受けるに至ったわけです。

三島の思想は日本の宝だと確信を持っていえます。