ポール・オースター 『幽霊たち』 | Pの食卓

ポール・オースター 『幽霊たち』

探偵小説―――推理小説とはまた違う味を持った小説群。

ミステリアスな事件、姿の見えない犯人、そして探偵する人物。

これらが必要不可欠な要素なのかもしれません。


では、これらのうちどれか一つが欠けた場合、

その小説のプロットは探偵小説として機能しなくなるのだろうか。


今回のポール・オースターの 『幽霊たち』 は先の条件のうち2つを欠いた探偵小説なのです。


ポール・オースター, 柴田 元幸, Paul Auster
幽霊たち

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私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。変装した男ホワイトから、ブラックを見張るように、と。真向いの部屋から、ブルーは見張り続ける。だが、ブラックの日常に何も変化もない。彼は、ただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。ブルーは空想の世界に彷徨う。ブラックの正体やホワイトの目的を推理して。次第に、不安と焦燥と疑惑に駆られるブルー…。’80年代アメリカ文学の代表的作品。

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自己の存在意義をテーマに取るところからポストモダニズムの香りを強く感じる。

確かにこの作品はポストモダニズムの文学作品だと思う。

読後、心に残る得も言えぬ違和感。

これは近代の文学作品によく見られる読後感なので、文学作品であることは間違いない。


では、探偵小説としてみたときはどうだろう。

何か一つの物事を追求し探求する主人公ブルーの姿はまさに探偵小説の探偵役そのもの。

そして事件の内容は、いたって平凡かつミステリアス。

姿の見えない犯人、これも全く問題ない。 犯人の姿は全く見えない。


全く見えないどころではない。

小説が始まった時点では、事件はまだ起きていない。

そしてその 「事件が起きていない」 そのこと自体が非常にミステリアスな話で、

「つまらない、つまらないはずなのに、ページを繰る手が止まらない」

そんな怪現象にまで見舞われる始末。


まさに幽霊たちに見舞われる小説。


とても読ませられる作品かつ手ごろなボリュウムなので、

未読の方がいらしたら、お読みになられたらいかがかと存じ上げ候