Pの食卓 -7ページ目

若竹七海 『ぼくのミステリな日常』

最近はまっている若竹七海さんのデビュウ作 『ぼくのミステリな日常』
これはまたおもしろい作品に出会った感ありです!!
構成の妙ここにあり!といったところです。

本日紹介させていただきますは、若竹七海さんの 『ぼくのミステリな日常』 です。

若竹 七海
ぼくのミステリな日常
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社内報の編集長に抜擢され、若竹七海の不完全燃焼ぎみなOL生活はどこへやら。慣れぬカメラ片手に月間『ルネッサンス』創刊に向け、準備おさおさ怠りなく。そこへ「小説を載せろ」のお達し。プロを頼む予算とてなく社内万歳ともいかず、すまじきものは宮仕えと嘆く間も有らばこそ、大学時代の先輩に泣き付いてみれば匿名作家仲介と相成る。かくして月々の物語が誌上を彩どり・・・・
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12話の連作短編と3話の手紙や編集後期からなる 『ぼくのミステリな日常』。
娯楽の少ない社内報ルネッサンスに寄稿された匿名作家 「ぼく」 による 短編集。
そのような形式なので、読んでいると、作中作のような不思議な感覚を覚えます。

英語でのタイトル、My Life As Mystery も良い感じですね。
あと朝倉めぐみさんによるイラストがとても良いです!
若竹さんのファンになるのと同時に、朝倉めぐみさんも好きになりました。
そんな 『ぼくのミステリな日常』 です。

では各短編についての読後感想文。


  四月・桜嫌い
    日本人は桜好き、桜とお酒があれば夜通し楽しい気分でいられる幸せな人も多いはず。
    かく言う僕もそんな一人なわけですが、その「桜」にまつわるミステリ。
    どうして桜が嫌いなのか、桜とミステリをつなげた春のように軽やかなミステリでした。

  五月・鬼
    「桜」 のような軽い話も好きですが、この 「鬼」 のような重苦しい話も好きです。
    ある女性が巨大な花鋏でもってとべらの枝を切り取ろうとしていることから、
    とある姉妹に纏わるドメスティックな物語が展開されていきます。
    今まで読んできた若竹さんの小説っぽい感じがしました。

  六月・あっという間に
    若竹七海さんはコージー・ミステリの作家さんだという話を聞いていたのですが、
    この話を読んでやっと納得いたしました。
    ある商店街における対立する野球チームに関する話。
    亜愛一郎のような戯画化された可笑しさのある楽しいミステリでした。

  七月・箱の虫
    この話が一番好きでした!ちょっとした怪奇趣味のあふれる作品で、乱歩めいた話も!
    ブログで紹介した若竹さんのある作品とリンクしております。
    どちらか一方読んだら、もう一つも読むといいです。
    両方の作品に対する思い入れがグッと変わるかも!
    かつての女子高校生が過去の失敗と事件の解決について語る話

  八月・消滅する希望
    『ぼくのミステリな日常』 の中でもっとも問題のある話かと思います。
    問題があるといったら語弊があるわけですが、印象的だと思います。
    話全体を通して感じられる怪奇趣味、朝顔がモチーフとなるミステリです。
    しかし七月七日に入谷で朝顔市なるものがあるのですね!
    思わず曽我佳城の空中朝顔を思い出しました。

  ≪入谷の朝顔市≫   今年は7月6日(木)から8日(土)まで開催されている模様。
  "空中朝顔" の品評会とは違った雰囲気ですが、おもしろそう。
  機会があれば朝顔の品評会も行ってみたいものです。

  九月・吉祥果夢
    「消滅する希望」 と並ぶ独特の雰囲気を備えた作品だと思います。
    連作小説内の 「ぼく」 が高野参りに赴き、そこであった女性と話をするミステリ。
    これもまた少々怪談めいた印象があり、論理的解決とはいえないけれど、
    独特の読後感が得られるかもしれません。

  十月・ラビット・ダンス・イン・オータム
    これも 「あっという間に」 と同じくコージー・ミステリです。
    飲み屋の席でくだらない賭け事をし、与えられたヒントを元に謎解きをする話。
    なんというか、ぐだぐだな会話や酔っ払いの痴態が笑いを誘います。
    どこかしら上品さを失わない描写力が若竹さんの魅力の一つでもあるかと思います。

  十一月・写し絵の景色
    版画に関するミステリ。 同窓会にも似た仲間たちが集まる酒の席、
    主賓である 「ぼく」 が到着すると、その席はすでに雨が降ったあとだった。
    気丈な先輩が流した涙の謎を解き明かすため、「ぼく」 が推理を働かす話
    けっこう良かった話のように感じました。

  十二月・内気なクリスマス・ケーキ
    この話、結構好きでした! とだけ言わせていただきます。
    花好きな男性とクリスマスに関するミステリ。

  一月・お正月探偵
    独特な読後感がたまらない一話。
    買い物マニア+健忘症という大変な神経症にかかった男性にまつわるミステリ。
    若竹さんのハードボイルドな一面が垣間見える一話なんじゃないかと思います。
    短編の良さがばっちり出ていました。

  二月・バレンタイン・バレンタイン
    これもコージー・ミステリ。
    短編の良さは構成美とキレの良さにあると思うのですが、
    この作品はそのどちらも特に優れているわけでは無いにもかかわらず、
    「謎の不可解性」 がとても優れているため、おもしろかったです!
    実際に起きそうな日常のミステリですので、読んでいてわくわくしました。
    
  三月・吉凶春神籤
    中国で出会った兄弟とある女性にまつわるミステリ。
    個人的には、この作品群の中で一番弱いような印象を受けましたが、
    その辺りは個人の好みで左右されそうな話だと思います。


若竹さんの文体が持つ、こざっぱりとした爽快感と、ぬるま湯的快楽を廃した冷たさ
デビュウ作からすでにその片鱗が見えているようです。
また魅力の一つである 「構成の美」 これも見事に達成されていました
「構成の美」 は長すぎる編集後記にて達成されておりましたですよ。

長すぎる編集後期を読み解くにあたり(少しネタバレなので反転)、
一つ一つが独立した話であった短編が、
一気に一つの話としてまとまりを帯びてくる。
そのときに感じた胸の高鳴りは 『スクランブル』 や 『依頼人は死んだ』 で感じたものと同じ。
後半になって一気に加速する謎、謎、謎。 そして解決!
こういうミステリを僕は好きなのかもしれない、やっと好みがわかってきました。

短編、日常のミステリ、パズル的解決、怪奇趣味、が好きな人にはオススメです!
ロジック、唯一無二の答え、が好きな方にはあまりオススメはいたしません。

さて、ポーション買って家に帰ろうかな・・・

ポーション・・・

研究室から家に帰る途中、友人から一通のメールが届く。

そして、そのメールには 『青いビンの写真』 が添付されていた。

青く透き通るような美しいボトルの飲み物、ポーションだ!


巷ではひどい噂が流れていますが、実際どうなの?と思い検証することにしました。

ポーション、ファイナルファンタジーシリーズなどで定番の魔法のお薬。

飲むと体力が回復するようですよ!



potion1  potion2

*左:パッケージ  右:中身


なんというか、コンタクトレンズ用洗浄液のようなパッケージに早くも妖気を感じます。

なんでもボトルは 6 種類あるようです。 細長いやつが欲しかったなあ。

際物臭プンプンなパッケージの裏を見てみると、原材料等が!



気になる成分は、と・・・

ローヤルゼリー、プロポリスエキス、エルダー、カモミール、セージ、タイム、ヒソップ、

フェンネル、マジョラム、マンネンロウ、メボウキ、メリッサ・・・



だ、大丈夫なのか?! これ!? これ、本当に平気なのか!?

思わずそう思ってしまうハーブのごった煮に、思わず逃げ腰モード。



たぶん、大丈夫だ。 と自分に言い聞かせ、ポーションのキャップを持ち上げる。

ポーションのキャップは二層式。 装飾的な外側のキャップはただ乗っているだけです。

一層目のキャップを取り除くと・・・



potion3



いたって普通なキャップが出てまいりました; ますます不安。



栄養ドリンクみたいだなあ、と思いつつキャップを外すと、ほんのり香る香り・・・

このにおい、僕たちは知っている・・・ どこかで嗅いだ事のある香りだ;

決して芳しいものではない。



心に芽生えた不安は広がる香りと共に一層濃くなっていくわけでして、

どんな液体なのか、少しだけキャップに取って確認してみました



potion4





おあー! 青い! なんだこの色!

思わず戦慄を覚えました。



たぶん、色だけだよ。 と自分を騙しつつ、キャップに注いだポーション飲む。



…・・・


これはひどい^^



いったい誰がこの味を許可したのだろう? 清涼飲料水というか栄養ドリンク

栄養ドリンクとして飲めば結構いける味、だが、清涼飲料水としては・・・

そうか、薬なんだ! これは薬なんだ! だってポーションだもんな!


potion5



ボトルはきれいで良いのに、この味は無い

細長いタイプのが出るまでがんばるつもりですが、

がんばれるか不安になりました。



630円の怪 ポーション 体力が減っている方、買ってみてはどうでしょうか?

綾辻行人 『人形館の殺人』

先ほど読了、仕事を抜け出し大学から更新中のPです。こんにちは
仕事中に何やってんの!というわけですが、せっかくのサボタージュなので満喫します。

ではご紹介させていただきますは、綾辻行人さんの 『人形館の殺人』 です。

綾辻 行人
人形館の殺人
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亡父が残した京都の邸「人形館」に飛龍想一が移り住んだその時から、驚倒のドラマが開始した!邸には父の遺産というべき妖しい人形たちが陣取り、近所では通り魔殺人が続発する。やがて想一自身にも姿なき殺人者がしのび寄る!名探偵島田潔と謎の建築家中村青司との組合せが生む館シリーズ最大の戦慄。
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この小説、好きです。 もちろん解説にて太田忠司さんが述べているように、
評価の付けづらいものであるし、《館シリーズ》 における毛色の違う一作なのでしょう。
あとがきで綾辻さん本人が述べているように、「愛着はある、しかし嫌悪感をいだいている」
両極端な思いに揺れ動く、不安定なバランスの上に成り立つ小説なのでしょう。
そこが僕が好きだと思う一番の理由となりました。

文体は 『水車館』 のときのように、寂寥感、虚無感の漂う暗く湿った文章
しかし 『水車館』 のよりももっとこなれた文章ではないでしょうか?
この文体のおかげにより 『人形館』 というドラマに浸れたように思えます。

ドラマという言葉を故意的に使ったわけは、事件全体、登場人物、人形の溢れる館、
さまざまな要素がドラマタイズされたものだからです。
読後、おもしろいドラマを劇場で観たときと同じ嬉しさを感じました。
文庫の裏にある紹介文に 「驚倒のドラマ」 という単語がありますが、的確な表現です。

紹介文の良さも見逃せないポイントです。(ネタバレじゃないですけど読後の行動なので反転)
一度作品を読み終えた後、文庫を閉じ、何の気無しに裏表紙を見てみると・・・
むむむ!と思わず唸らされました。
ここにまで仕掛け (仕掛けとはいえないかも;) があるとは、さすが綾辻さんです!
とか何とか思ったりしました。

そんな綾辻さん作品 『人形館の殺人』 は前巻の 『迷路館の殺人』 とは全く正反対の小説です。
文体やさまざまな要素から稚気が消え、より沈鬱でより深刻な問題へと事件が沈降していきます。
『迷路館』 で感じた高揚感にも似た愉しさではなく、静かで居心地の悪い楽しさがあります。
前巻の奇想天外とは性質のことなる奇想が 『人形館』 にはあったのです!

犯人は?どういう事件なんだ?あれ犯人は?と、まるで電車のように進む物語に、
僕たち初心な読者は乗客よろしく乗せられて、運ばれて、終点に着くまで流れにまかせるしかない。
そんな能動的に動くことすらできない、まるで人形のような読者になってしまう
そのような仕掛けが文章に仕組まれているのかな?と勝手に思ったりしてしまいます。

『人形館の殺人』 は、ガチガチの本格、ロジックもの、そういったものではなく、
広義のミステリや、怪奇小説、ドラマ、不条理性、論理の散解が好きな方にはオススメ!

しっかし、犯人はどうなってしまうのだろう?
好きな推理小説の感じと似ていて、それも高評価の因子のひとつなのかもしれません。
不安定な小説なので、合わない人には決して合わないのかもしれません
『時計館の殺人』 が楽しみです!

綾辻行人 『迷路館の殺人』

構造美の追求、迷路のような複雑な建造物を思わせる構造、それが 『迷路館の殺人』 。
本日読了本、綾辻行人さんの 『迷路館の殺人』 とてもおもしろかったです!


綾辻 行人
迷路館の殺人


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奇怪な迷路の館に集合した4人の作家が、館を舞台にした推理小説の競作を始めたとたん、惨劇が現実に起きた!完全な密室と化した地下の館で発生する連続殺人の不可解さと恐怖。逆転また逆転のスリルを味わった末に読者が到達する驚愕の結末は?気鋭が異色の構成で挑む野心的な長編本格ミステリー。

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綾辻さんの 《館シリーズ》 は、その魅力の一つに 《館》 があります。
過去に自らの建てた 「青屋敷」 で不可解な死を遂げた建築家、中村青司。
その中村青司が各地に残した《館》それが何と言っても魅力的なのです。


例えば、第一弾 『十角館の殺人』 では 「青屋敷」 と 「十角館」 が登場します。
どちらも名前の通りの建築物で、全てが青い 「青屋敷」 そして十角形の館 「十角館」。
「青屋敷」 は中井英夫さんの 『虚無への供物』 に出てくる氷沼蒼司の部屋を思わせ、
設定から既にミステリの香り漂うものとなっております。


第二段に出てきた館は 「水車館」 森閑の中巨大な水車が備え付けられた館が佇む…
その光景を想像するだけで、好奇心がわきます。
夜中にゴウン…ゴウン…と回る水車、それだけでも物語性があります。
また画家が住んでいただけあり、画廊を彷彿させる構造にも好感が持てました。


と、このように面白い建物が出てくるわけですが、残念なことに、
僕の頭とセンスでは、これらの建物がその形や性質である理由が見出せませんでした。
《館》 と 「プロット」 が分離している状態にあるように感じます。
おもしろかったので不満ではありませんが、もったいない感じがしました。


しかし!今度の 『迷路館』 ではその不満が解消されていたかと思えます。
この事件現場、やっぱり迷路でなくっちゃ!そう思わせてくれた構造です!
では読後感想に入ります。



《読後感想文》

まず感じたことは、『迷路館』 は黄金時代の作家さんたちを賛美した推理小説
エラリー・クイーン、カー、特にトリックに関しては黄金時代の事件のように感じました。
読んでいる最中 「あー、これは!」 とかそれっぽいものを見つける度に、
「いいね、いいね。」 と一人うなずいていました。
例によって小田急江ノ島線にて不気味な行動をしていたわけです。


そんな本格テイストばっちりの 『迷路館』、構造のおもしろさは建物だけではない。
物語の構成が楽しい! 作中作形式! 作中作中作形式! 作中作中作中作形式!
奇譚社ノベルズから出版された鹿谷門美の小説 『迷路館の殺人』 をある人物が読むわけですが、
その小説内で四人の作家たちが、さらに作品を発表?する感じです。
まるで迷路のように同じ回廊を行きつ戻りつしたりする感覚、これぞ「迷路館」!


今回のテーマは 「ギリシャ神話」、作中いたるところにギリシャ神話のモチーフがあります。
最初は迷路ということで、ダイダロスと単純に組み合わせただけかと思い、
あまり期待は持たなかったのですが、物語終盤、ここで一気にイメージが変わります。
「これはおもしろい!」 と思わず膝を打つこと請け合い。

シェイクスピア劇の登場人物もギリシャ神話にその起源を見ることができたりと、

何かと馴染みのある神話なので、とても好きなのです。


「事件の不可解性」、「はらはらするサスペンス要素」、「意外な結末」
これらミステリの要素はあったように思えます。
なんとなく目星を付けて読み進めていくと、最後の最後で思わぬどんでん返し
新本格ならではの意外性のように感じました。


次巻の 『人形館』 ですね。 『時計館』、そして一番期待をしている 『暗黒館』 楽しみです。

なんと・・・

友人に知らされ、自分の本名をGoogleで検索をしてみると・・・

今までは見知らぬ小学生のキャッシュばかり出ていたものが、

まぎれもないP自身の論文が掲載されておりました;


掲載といっても、内容について触れているものではなく、

「こういう論文が出てますよ」 というタダの紹介なのですが、

ちらりとでも名前が出ていると、舞い上がってしまうものですね。


嬉しかったのでご報告まで。


沙翁とShakespeare

ハムレットを扱った論文等のページ



しかし、小田島雄志先生と同じページに名前が載るとは・・・

そのうちバチが当たる予感;

エラリー・クイーン 『エジプト十字架の謎』

海外古典物を読まなければと思い、一念発起、クイーンの国名シリーズを読み進めています。

ヴァン・ダインやクリスティも並行して読み進められれば良いのですが、

ある理由のため、どうしてもクイーンを集中的に読まなくてはいけないのです。


その理由とは、たった一冊の研究書をじっくり楽しむため。

北村薫さんの 『ニッポン硬貨の謎』 を心行くまで楽しむためです!

また 『ニッポン硬貨の謎』 と関連の深い、若竹七海さん他の 『競作50円玉二十枚の謎』 も入手。

気合を入れてクイーン論を読み解く次第であります!(気合だけはあります;)


そんなこんなで今日読み終えました エラリー・クイーンの 『エジプト十字架の謎』

Ellary Queen. The Egyptian Cross Mystery


エラリー・クイーン, 井上 勇
エジプト十字架の謎
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Tの字形のエジプト十字架に、次々とはりつけにされてゆく小学校校長、百万長者、スポーツマン、未知の男! その秘密を知るものは死者だけである。ついにさじを投げたと思われたエラリーの目が、突然輝いた。近代のあらゆる快速交通機関を利用して、スリル満点の犯人の追跡がくり広げられる。読者と作者との激しい謎解き戦はどうなるか?
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《まず注意点!!》

上記のリンクからAmazonへ飛ばれる方、注意してください!

カスタマーレビューがネタバレのオンパレードです!!

未読の方は決してカスタマーレビューを見ないよう最新の注意を払ってください!

しかしミステリのレビューでネタバレって・・・;



そんなトラップも仕掛けられつつ、レビュウという名の読後感想文書きます。


『エジプト十字架』 はその前年に発表された 『オランダ靴』『ギリシア棺』 と並び、

その構成の見事さからクイーンの傑作と呼ばれているようです。

Tの字型に磔された被害者の死体、そして辺り一面にTと血文字で殴り書きされた現場、

視覚的効果はなかなかだ思います。


視覚的効果は 『ギリシア棺』『オランダ靴』 の方が優れているように見受けられます。

『エジプト十字架』 は死体が磔にされているため、凄惨ではあるけれど意外性がないです。

それに対し 『ギリシア棺』 『オランダ靴』 は 「唐突な事件の露呈」 があり、

被害者の突然の出現により、一気に物語内の状景が眼前に広がり、ある種の爽快感さえ味わえます。

今回の 『エジプト十字架』 の事件の露呈は、そういった観点から言えば、地味めなものです。


もちろん地味だからいけないわけではありません。

むしろジミスキイなので、事件が地味であれば地味であるほど好きなPなわけですが、

この 『エジプト十字架の謎』 ・・・発行された年に読みたかったと思います。

地味と感じた理由、それはこの作品と似たものを読んでいたからかもしれません。

もっともその作品はミステリではなく、文学として扱われていますが、それはまた別の機会。


事件と解決ですが、今回は珍しく犯人当てに成功することができました。

それは情報を限りなく提供したクイーンのフェアプレイからなるものでしょう。

フェアプレイ、という点で気になる箇所がありましたが(pp. 417-8)、

読んでいるうちはあまり気にすることなく読めたので、これくらいならばフェアプレイに反しないのでしょう。


なんとなくダラダラとした雰囲気の中続いていた今回の事件ですが、

解決編の 「ある一言」 の爽快さが何ともいえなかったですよ!

強調に強調した文章なので、既読の方はハハーンと思われるかと思いますが、

解決編ではその唯一無二の証明が聞きたかった!この一文だけでおすすめ度大アップ。

エラリーの口から聞きたくてウズウズしながらページをめくっていましたですよ。


何となく、事件のための事件、という感がぬぐえないエラリー・クイーンの国名シリーズ。

今まで読んだ中の殆どの作品において動機面の弱さが目立ち、

ロジック遊びの楽しさと欠点を感じさせるものがありますが、そんなクイーンが好きです。

ロジックの気持ち良さと情緒溢れる描写の両立を果たした有栖川さんはもっと好きです。


『ギリシア棺』 がおもしろい!と感じた方、こちらも是非読んでみてください!

リチャード・クイーンが好きな方、出番が少ないのでちょっと残念かもしれません。

ジューナだけが好きな方、出番が無いのでオススメいたしませんw



追記:
しかし、エラリーの引用癖や引用のための引用、表層的な範囲で留まってしまう引用たち。

何となく不満を持っていたところ、今回、エラリーの恩師が現れて若い引用好きに一喝いれてましたw

そう言われてしまうと、こちらは 「まったく、エラリーは」 と苦笑するしか無いです。


若竹七海 『依頼人は死んだ』

    まずいコーヒーだった。これで千二百円とるのだから、

    きっとウラニウムかなにかが入っているのだろう。

                        (鉄格子の女: 葉村晶・地の文)


あまりにも的確な表現であったため、思わず噴出してしまった箇所。

この小説内には事件とは全く関係の無い箇所、またはガッチリ関係した箇所で、

つまり方々で上品で洗練されたユーモアが見られる。


若竹さんのユーモアは、ギャグや笑わすことが目的ではなく、

あくまでも読者に異なる相を提示することにあり、

新しい視点を作るきっかけを僕たち読者に与えている。

そんな若竹さんの小説の魅力にまたしてもやられました。


今読み終えたところですが、若竹七海さんの 『依頼人は死んだ』 を紹介させていただきます。

この小説、きっと読み返すと思います


若竹 七海
依頼人は死んだ

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念願の詩集を出版し順風満帆だった婚約者の突然の自殺に苦しむ相場みのり。健診を受けていないのに送られてきたガンの通知に当惑する佐藤まどか。決して手加減をしない女探偵・葉村晶に持つこまれる様々な事件の真相は、少し切なく、少しこわい。構成の妙、トリッキーなエンディングが鮮やかな連作短篇集。

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読み始めて、「若竹さんの小説は好きだけど、これはちょっとどうかなあ」 と思ってしまいました。

しかし、前言撤回!読み続けていく途中 「このミステリ好きだ!」 と思うようになりました!

そして読み終えた感想・・・ 「お、おもしろすぎる!このミステリ!」 です。


女探偵・葉村晶が主人公として活躍する連作短編集です。

次巻の長編 『悪いうさぎ』 と併せて葉村シリーズと言うそうです。

そんな葉村シリーズ第一弾に収められている作品は以下九作そしてレビュウ。


  1. 冬の物語: 濃紺の悪魔 (週刊小説 98年9月4日号所載)

    何となく地味な印象を受けていました。また若竹さんの乾いた冷たさがあまり感じられず、

    少々物足りない気持ちに。ミステリとしても??という感じを受けました。

    その原因はラスト数行の位相のズレにあるのですが、これが印象をガラリと変える!

    全体を読み終えた後に 「ナニー!」 と読み返しました・・・


  2. 春の物語: 詩人の詩 (小説TRIPPER 97年冬季号所載)

    なんとなくオチはわかっているものの、なんとなく読んでしまう感じです。

    この辺りで 「ちょっとどうかなあ」 と上記懸念を感じておりました。

    この話は特筆することはありません。

    強いて言うならばこの連作におけるテーマの一つを垣間見ることができる?


  3. 夏の物語: たぶん、暑かったから (オール讀物 93年11月号書斎「ホリデー」改作)

    がらりと評価を変えさせてしまった一作!

    実は昔書いていた文学ものとテーマが似ていたわけですが、(もっともクオリティが違いますが;)

    若竹さんのスゲー!と飛び上がって喜んだものです。

    カミュの 『異邦人』 必読


  4. 秋の物語: 鉄格子の女 (ポンツーン 98年11月号所載 改作)

    この作品で殿堂入り決定では無いでしょうか?

    探偵小説初期の変態チックなおぞましさを感じさせる人物関係に燃える!

    登場人物に乱歩さんが出てきそうな感あり。

    この連作短編中2番目に好きです!


  5. ふたたび冬の物語: アヴェ・マリア (小説NON 95年2月号所載 加筆訂正)

    何と言ってもこの短編が1番良かった!

    事件の謎、そして不思議な位相のズレ!そして・・・ダメだネタバレる!

    とりあえず、麻耶さんの読後感を思い起こさせるような感じです。

    「うわ、このミステリ好きだ!」 と思わず小躍り

    徹夜モードに入るきっかけとなった短編;

    

  6. ふたたび春の物語: 依頼人は死んだ (別冊文藝春秋228号(99年7月)所載)

    これも良かった!読み終えた後、すぐに読み返しました!

    「えー!」 「そうか」 「なるほどー!」 と一番納得のいく解決だったと思います。

    本格テイストが味わえる一作


  7. ふたたび夏の物語: 女探偵の夏休み (週刊小説 99年8月20号所載)

    これも好きです! アヴェ・マリアのように世界のズレを感じさせてくれました

    何よりも構成の妙が冴え渡る一作だったと思います。


  8. ふたたび秋の物語: わたしの調査に手加減は無い (小説NON 99年2月号所載)

    うーん、連作短編中一番若竹さんの乾いた冷たさを感じた作品かもしれません。

    ひしひしと感じさせられるあの冷たさ、他人との距離、好きです。


  9. 三度目の冬の物語: 都合のいい地獄 (書き下ろし)

    この作品で1番目の作品の評価が180度変わりました!

    構成の妙ここにあり!といった感じでしょう。


全くネタバレにはならないため言わせていただきますが、

若竹さんの 『依頼人は死んだ』 の重要なテーマの一つに親子関係があると思います。

もちろん親子に限らず、言わば、保護者―被保護者の関係です。


以前にも 『スクランブル』 で触れましたが、Interdependencyの崩壊 を感じさせられます。

最も自分に近い他人である保護者、その人間と自分との間にある果てしない距離

その不毛な距離感を鋭く簡潔な文章で描き出している!

決して理解しあうことや馴れ合うことの無い冷徹で妥協の無い世界

そんな厳しい世界に葉村晶が住んでいるのかもしれません。


構成の良さ、無理解、人との関係、位相のズレ、姉妹憎悪、これらのキーワードにピンときたら買いです!


たいへんだー 綾辻さん、法月さんサイン会!

た、たいへんだー!4月2日15時、TRICK+TRAP にて 法月綸太郎さんのサイン会!

対照本は 『怪盗グリフィン、絶体絶命』 だそうです!


さらに!4月3日17時、綾辻行人さんのサイン会、TRICK+TRAPにて!

『びっくり館の殺人』 刊行記念だそうです!

詳しくは情報元の パン屋のないベイカーストリートにて をご覧くださいませ!


麻耶雄嵩 『まほろ市の殺人 秋 闇雲A子と憂鬱刑事』

一度は挫折した 『まほろ市シリーズ』、我孫子さんの夏が見つからなかったため、

一つ飛ばして 麻耶さんの 『まほろ市の殺人 秋』 を購入しました。

本日紹介しますは、『まほろ市の殺人 秋』、麻耶雄嵩さんです。


mahoro2

麻耶 雄嵩
まほろ市の殺人 秋―闇雲A子と憂鬱刑事

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「早く乗せて!」非番の刑事天城憂の車に、女性が乗り込んで来た。真幌市在住の有名なミステリー作家闇雲A子だった。この春から十一件も連続して殺人事件が発生している。その「真幌キラー」をA子は追っていたのだ。死体の耳が焼かれ、傍には必ず何かが置かれている。犬のぬいぐるみ、闘牛の置物、角材…。真幌市を恐怖のどん底に陥れる殺人鬼の正体とは。

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今回最も驚かされたことは、表紙裏に麻耶雄嵩さんの写真が載っていたことです。

あまりにも意外なことでしたので、小説を読む前に驚いてしまいました。

かなりかっこ良い人です。しかしこの背景は?一体ドコで撮ったのかしら?

個人的にはメルカトル鮎のイメージに近かったと思いますが、皆さんどうでしょう?


『幻想都市の四季』 ということで作家さんたちが一つの街の異なる季節を描くわけですが、

麻耶さんが担当した季節は秋、表紙も秋色落ち葉色です。

黄色と赤と茶色、なんとなく京都の秋を感じさせる表紙でした。

しかし、秋という季節がプロットと蜜に関わりあっているかというと、そうでもなかったりする。


そして 『まほろ市の殺人 春』 と同じく、今回もあまり都市の機能が活用されていなかった気もします。

『真幌市』 という大枠だけが存在し、あとは勝手気ままに料理する、といった雰囲気を感じます。

縛りが少ない分、共通性が無く、真幌合作アソロジーとはなり得ないようです。

個々独立した書き下ろし作品なのでしょう。 おもしろい企画なだけにもったいないです。

合作といえばクリスティたちによる 『漂う提督』、これも評価はいまいちのようです。


そんなシリーズ共通の欠点を持ちつつも、この 『闇雲A子と憂鬱刑事』 は中々おもしろかった!

おもしろかったと言っても、ある一定の水準を維持できた、という後ろ向きな評価なわけですが;

それでも充分楽しめたかと思います。 これで380円なら納得!

その理由は、簡潔な構成そして面白いキャラクターにあったかと思います。


中編小説ということで、書き込むこともままならず、かといって切れ味良くすることもあたわず、

難しい長さではあるかと思いますが、その点麻耶さんは中編小説の機能を使っていました。

『興味深い事件』 で始まり 『ベターな展開』 そして 『解決』 飽きさせない工夫が凝らされていました。

怪盗ビーチャム!彼の存在は料理で言うところのパセリ!彩りをそえてくれます。

簡潔な構成、キャラクタライズ、読みやすい文章、これらが中編の欠点を補っていました


事件の内容ですが、人によっては納得行かないかもしれませんし、評論家はダメダシをいれるでしょう。

しかし、どことなくですが、戦前戦後ミステリのような面白さがあったような気がします

犯人はすぐわかってしまうため犯人当てという形式では無いのですが、

どうしてだろう、どうして?というモヤモヤとした感覚が物語を進展させます。


麻耶さんといえば独特の読後感。黒々としたどんより雲が晴天を覆うような読後感。

今回の 『闇雲A子と憂鬱刑事』 は割と気持ちの良い読後感だったのではないでしょうか?

もちろんしっかりとどん底気分ではありますが、これはこれで嬉しい終り方です。

『春』 で味わったどん底気分の方がきつかったくらいです;


アマゾンでもあまり評価の高くない 『真幌シリーズ』 ですが、

麻耶さんの作品はなかなかおもしろかったと思うので、

興味をお持ちくださった方は手に取ってみてはいかがでしょう?


現実的な世界から不思議で不愉快で居心地の悪い世界へと物語が展開していく・・・

このようなおもしろさを提供してくれている麻耶さんは稀有な作家さんなのでしょう。

次元の「ずれ」を感じてしまいおもしろいです。

小野不由美 『黒祠の島』

本日、高校での最終授業を終え、非常勤講師としての役目は終えました。

なんだか一時代を終えたような、ほっとしたような、複雑な心境ではありますが、

今日も今日とてミステリ漬けなのです。


本日、紹介しますは 小野不由美さんの 『黒祠の島』 です。

かねてより多数の方々より勧められていたものを読了。


小野 不由美
黒祠の島

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嵐の夜、孤島で巻き起こる猟奇殺人!
本格ファンを唸らせた傑作!
●本格ミステリ3位(原書房『2002本格ミステリーベスト10』)
● 『ダ・ヴィンチ』4位(Book of The Yearミステリー部門)
 作家葛木志保(かつらぎしほ)が失跡した。パートナーの式部剛(しきぶたける)は、過去を切り捨てたような彼女の履歴を辿り「夜叉(やしゃ)島」に行き着いた。その島は明治以来の国家神道から外れた「黒祠の島」だった……。嵐の夜、神社の樹に逆さ磔にされた全裸女性の死体。さらに、島民の白い眼と非協力の下、因習に満ちた孤島連続殺人が! その真相とは? 実力派が満を持して放つ初の本格推理。
黒祠とは
 明治政府の採った祭政一致政策によって、神社は信仰の対象ではなく、国民が義務として崇拝する対象とされた。神社は国家の宗祀(そうし)として社格制度のもとに統合され、国家の施設とされた。全国の神社は位階制によって整然と編成され、行なわれる祭祀も国家の定めた様式に統一された。この統合に与(くみ)しないものは迷信として弾圧されなければならなかった。 国家神道の中にあって、黒祠とは、統合されなかった神社を言う。それは迷信の産物であり、言わば邪教である。

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邪教キター!某ゲームにて邪教の館だのガイア教徒だのメシア教徒だのにハマっていたPです。

小説内にも某ゲーム 「if」 でお世話になった悪鬼が出てきたりと、至れり尽くせり。

やっぱりインド系の神様やら悪鬼羅刹には物語性がありますね。


さて、今回の目玉でもある 「因習」 ですが、『黒祠の島』 のそれはまさに横溝的!

法律なんかあって無いようなもの、「口をはばかる」 という理由で閉ざされる事実。

理性や合理的精神の範疇を超えた話、そういうの好きです。まさに日本的!

合理的精神に基づく西洋的思想では表現できないおどろおどろしさ!良かったです。


事件の内容は凄惨の一言に尽きます。うげえ、と思いながらも好奇心から読んでしまう。

そうさせてくれる感じが因習ものの良さかと思います。

活字の字送りに馴染めず、読み始めはてこずりましたが、慣れた後は一気読み!

力強い手で引っ張られるかのような 「不可解な事件性」 と 「謎」 がありました!

以前に霧舎巧さんの 『カレイドスコープ島』 を 「横溝的」 と言い、喜んでおりましたが、

今回、『黒祠の島』 を読むことで、ちょっと 『カレイドスコープ島』 の評価が変わってきました。

「横溝的」 と 「因習テイスト」 は似ていて非なるものなのですね。


解決や結末ですが、納得いくかどうかは分かれると思います。

しかし、そこが因習ものの良さなのかもしれません。

ただ、ここまで引っ張ってくれたのだから、もう少しスリルを味わいたい気持ちは残りました。


そんな 『黒祠の島』、因習、閉鎖的な村人、孤島、そういったものにピンときたら買いです!