Pの食卓 -4ページ目

若竹七海 『クールキャンデー』

最近、風邪を引いたのか、咳が出てきたので、咳が酷くなる前に眠ってしまう作戦中。

おかげさまで推理小説をほとんど読みすすめられていません。

『湖底のまつり』 の世界に迷い込んだ夢をみたりと、ちょっと危ないわけですが、

まあ、元気にやってます。



本日紹介しますは 若竹七海さんの 『クールキャンデー』 です。



coolcandy
若竹 七海
クール・キャンデー
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「兄貴は無実だ。あたしが証明してやる!」誕生日と夏休みの初日を明日に控え、胸弾ませていた中学生の渚。だが、愉しみは儚く消えた。ストーカーに襲われ重態だった兄嫁が他界し、さらに、同時刻にそのストーカーも変死したのだ。しかも、警察は動機充分の兄良輔を殺人犯として疑っている!はたして兄のアリバイは?渚は人生最悪のシーズンを乗り切れるか。
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「14歳の少女渚の味わう最悪の夏休み」 を描いた推理小説。

この読後感、若竹さんの作品ならではの感です!

そっけなく積まれた物語が、最後の最後で反転大崩壊・・・

毎度のことではあるけれど、若竹さんの作品には驚かされてばかりです。


さて、今回の 『クールキャンデー』 ですが、

おそらく ≪葉崎シリーズ≫ に入るのかもしれませんね。

舞台は鎌倉近辺の葉崎市でした。


じりじりと照り付ける日差し、蒸し暑さ、ギラギラと照り返す波。

そんな雰囲気の中、氷のように冷たい事件が起きるわけです。

渚の熱い行動力で事件は徐々に溶け出し、最後には核だけが残る。

その核のキツイことキツイこと・・・


小説内の各所各所に、この結論に達するにふさわしい条件が描かれているわけですが、

どうしてそれに気が付かなかったのか、若竹さんのうまさに感服。

「あ、そういえばそうだったね」 と思わず呟いてしまいました。


読み終えて一見単純な推理小説かと感じてしまうかもしれませんが、

小説内にちりばめられた言葉を収集し分析すると、

この話のおもしろさがどんどんにじみ出てくる!!

するめみたいだ! ・・・なんて言うと一気に魅力がなくなりますね;


味があるんですよ。


何よりも嬉しかったことは、『クールキャンデー』 の中である小説が出てきてました。

その小説とは、泡坂妻夫さんの 『湖底のまつり』 でした!

何とも奇遇、現在読んでいる小説がタイムリーに出てきたので、飛び上がる嬉しさ!

泡坂さんも若竹さんも本当に最高の作家さんです。


紹介しようにも中編小説なので紹介しづらいわけですが、

賞味一時間、とても楽しく読みきれました。


時間が無い人、若竹さん好き、夏が好き、そんな方は買いだと思います!


春なのに

何故か気持ちは沈みがち。

すみれも香ったし、枝垂れ桜の満開の下にも入ったし、夜桜を眺めながらお花見もした。

一体全体何が足りないんだろう?



追記 (四月十九日) :

楽しいことはたくさんあるのに、何故だか何かが物足りない。

楽しんでいる自分を、一つ外側の円から眺めているような感じがする。

そんな違和感、原因がわかったように思えます。


推理小説がっちり読んでないや orz


そんなことに気がついた水曜の午後でした。


米澤穂信 『夏期限定トロピカルパフェ事件』

昨日、バレエ鑑賞をした帰りの電車で 『春期限定いちごタルト事件』 を読み終わり、

その後、その日のうちに読破してしまいました。

話の運びがうまく、まるでライン下りを愉しんでいるかのように、あれよあれよと話が進む。

「とりあえず一章」 と読み始めると、三章くらい読んでしまう気軽さがあります!


何の話かというと、米澤穂信さんの 『夏期限定トロピカルパフェ事件』 です。

いやはや、おもしろうござんした。


米澤 穂信
夏期限定トロピカルパフェ事件

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小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を! そんな高校二年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは<小佐内スイーツセレクション・夏>!? 待望のシリーズ第二弾。

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『春期限定いちごタルト事件』 がその名前の示す通り、

いちごタルトのような爽やかさと甘ったるさを感じさせるものであったのに対し、

『夏期限定トロピカルパフェ事件』 は、まさに南国フルーツそのもの。


僕の南国フルーツに対する考え方は、この小説のラストで感じたものと同じであるため、

題名と作品全体が合致した良作だと思ったのですが、皆さんはどう感じましたか?


デビュウ作 『氷菓』 や続編の 『愚者のエンドロール』 にも見られるように、

米澤さんの作品からは 「ミステリのおもしろさ」 を開拓する意思が感じられます

『夏期限定』 からも同じ意気込みを感じることが出来ました。

その意気込みを感じるだけでも本作は買う価値があると思います。


肝心の内容ですが、前作にも増してキャラクター性が高くなったような気がします。

それを評価できるか否かは、各キャラクターに対する思い入れ度に依るかと思います。

僕は地の文に少々のつっかかりを覚えながらも、全体としては楽しんで読めました。


謎に関しては 『春期限定』 の方が熱中して楽しめたかもしれません。

しかし、今回の "シャルロットだけはぼくのもの" と "シェイク・ハーフ" この2つは秀逸!

まあ、"シャルロット~" は出てくる 「シャルロット」 というスイーツがおいしそう!って話なのですが;

それだけじゃない、推理合戦のように静かなバトルもあるので、楽しいですとも。


"シェイク・ハーフ" に関しては、昔からある探偵小説そのもの!

なんだろう、このワクワクする感じは・・・ なんだろう、このページをめくりたくない気持ちは・・・

提示された謎を楽しんで解く、そんなことを思い出させてくれた話でした。

不謹慎な話ですけれど、小説は小説として割り切って、存分に楽しまないともったいないです。


さて今回の目玉ですが、『春期限定いちごタルト事件』 でもそうであったように、

ラストの一話 "スイート・メモリー" に焦点が集まるかと思います。

『春期限定』 を読んだ後や、浮いた一文が目についた方は予測がついてしまうかもしれませんが、

そんなこと無粋に追求せず、思いっきり驚いてみたらどうでしょうか。

驚けた方は絶対に 「おもしろい!」 と思うはず!


さてさて、そんな目玉を通りこし、余談の域に入ります。

「こんなものかな」 と 『春期限定』 ではスルーした問題について (ネタバレ反転):


  小鳩少年と小佐内さんの2人は依存関係でも恋愛関係でもなく、

  互恵関係にあると本文でくどいほど説明されていますが、

  『春期限定』 や 『夏期限定』 を読む限り、どの辺りが互恵関係なのか謎でした。

  「2人は完璧に依存関係にある」、僕はそう感じてしまい、

  地の文を読むたびに違和感をずっと感じ、つっかかりつっかかり読んでしまいました。

  ・・・が、『夏期限定』 ではその違和感が解消されており、とても好印象!

  今回のオチの付け方で、ますます米澤さんが好きになりましたとも。


例のごとく、主観的な感想ですが、個人的に不満が解消されたので、とてもよかった!

春期・夏期と来たならば、おそらく秋期・冬期と続くのかもしれませんが、

続いても続かなくても、このシリーズはおもしろいと思います!


甘党の皆さん、絶対に買いだと思います。


米澤穂信 『春期限定いちごタルト事件』

『夏期限定トロピカルパフェ事件』 が発売され、各方面で好評を得ている米澤穂信さん。

土曜日の午後、ふと風に誘われて、紀伊国屋に入ったところ目に飛び込んできた一冊。

その一冊がとてもとてもおもしろく、土日は楽しくミステリな生活ができました。


今日ご紹介いたしますは、米澤穂信さんの 『春期限定いちごタルト事件』 です。


米澤 穂信
春期限定いちごタルト事件

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小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか?新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書き下ろし。

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ライトノベル的な印象を受け、どうにもレジに持っていくのが躊躇われていたのですが、

桜が散る散る春嵐の中、どういうわけかすんなりと手に取ることができました。

さすが 『春期限定』 です。 宣伝に偽りなし!


米澤穂信さんの作品を全て読んだわけでも無く、また本人に話を聞いたわけでも無く、

ただの一読者としての感想なのですが、米澤穂信さんはキャラ萌え作家さんだと思います。


《キャラ萌え》 という言葉を否定的に使っているわけではありません。

ホームズ、ブラウン神父、明智小五郎に御手洗潔などなど、

古来より名探偵と呼ばれる探偵たちには "キャラ萌え" の要素があると思います。


強烈な個性により、超人的な論理の飛躍を見せ、真相を看破する。

探偵小説の常套手段だと思いますが、"強烈な個性" が最も重要な要素だと思います。


例えば、何某刑事が突然 「君は弓道をしているね。」 と言い、関係者を驚かせた後、

続けて 「何、簡単なことさ。左手の手の内にタコがあったからね」 などと部下に言っている姿・・・

あんまりパッとしない上、なんだか残念な気持ちにもなってしまう。

やはり、ホームズのような特殊な人間によって探偵してもらいたいと思います。


まあ、僕の趣味は置いといて、"キャラ萌え"だっておもしろい、という話で進めます。


『春期限定』 も 《古典部シリーズ》 に則ってキャラ萌え路線全開だったと思います。

《古典部シリーズ》 で 千反田える に心を奪われた人の中で、

『春期限定』 で 小佐内さん にも心を動かされた人、少なくないのでは?

小説好きな男の子が憧れを抱くには充分過ぎるほど計算された作りです!


絶滅しかけている彼女たちのような女性を、魅力的に描き出す米澤さんは、

絶滅危惧種を育てる名手なのかもしれない。

しっかし、現実の女子高生ときたら、それはそれは・・・なんというかその、

女性に対する理想を打ち砕いてくれるありがたい存在です。

元気を分けてくれることは、本当にありがたいことです。




《読後感想文》


主人公である 小鳩君と小佐内さん は小市民になることを夢見る2人なので、

2人の周りに集まる事件は自然と 《日常の謎》 が多くなります。


《日常の謎》 といえば、真っ先に思いつくのが北村薫さんの 《円紫さんと私シリーズ》 です。

しかし、米澤穂信さんと北村薫さんの描く 《日常の謎》 は全く異なるもので、

それぞれに違った魅力があり、楽しめるかと思います。


例えば、本作中の "おいしいココアの入れ方" は米澤さんでないと描くことはできません。

軽い語り、不可解だけど平凡な謎、キャラクターの魅力、そして納得の解決。

計算されている上に、作家さんまで愉しんで書いているような印象を受けました。


一方、北村薫さんの 『空飛ぶ馬』 に収められている "砂糖合戦"。

これは北村薫さんの腕を以ってしか世に出ることは無かった事件だと思います。

一件謎とも思えぬ日常風景、そこに潜む謎、そしてその底には必ず心の動きがある。

まとめるには複雑なプロットを、そう思わせないテクニックにより日常風景の中に溶け込ませる技!


同じ 《日常の謎》 でも全く異なる2人の作家さんのミステリ。

共通点は、読み終えた後に残る、ある種の爽快さでしょうか?


日常の謎、高校生活に対する思い、100%解決でなくとも楽しめる方、甘党

文句なしで買いかと思われます。

ついでに 『夏期限定トロピカルパフェ』 と、お気に入りのケーキでも買って読みましょうぞ。


米澤 穂信
夏期限定トロピカルパフェ事件

仕事 一週間目

最近、何かと職場で話題のPです。 こんばんは。

今日はハンドパワーの才能を見込まれて、電気式の穴あけ機とテプラを直しました。

何故直せたのかは謎ですが、冗談で手をかざしたら動くようになりました・・・


あとは、冗談で 「お金の匂いがする!」 と嘯いて、開かずの金庫を開けたら、

○万円近い行方不明だったお金が・・・ 謎な超能力に目覚めたようです。


最近言霊に就かれているのではないかと、冗談半分に思うのでした。


仕事の方はだいぶ慣れ、次の日の分も終らせて帰れるくらいになりました。

しかし、次の日の分を終らせて帰っても、次の日には次の日の仕事があるのですね。

不思議なこともあるものだ、と謎に思いながら、今日も今日とてサービス残業。

なんだか知らないですけど、働いていることが楽しくてしかたないです。


それについに給食が始まりました!

もう、僕のことをご存知の方は想像されておられるでしょうが、

まあ、食べましたとも。 おかわりもしましたとも。 ブドウパンがおいしくて4ついただきましたとも。

いやあ、最後に給食を食べてから12年! 気が付いたら干支が回ってました。


学生のときが一番!という言葉も真ではありますが、

仕事をして生活する、ということも最高に楽しいことではないのかなあ、と思います。

自分が働いて手に入れたお金で明日も生きていけるなんて、おもしろいですよね。


一日一日がとても楽しくて、なんだかとても長く感じます。


若竹七海 『大道寺圭の事件簿 死んでも治らない』

某書店の若竹七海コーナーを空にした犯人Pです。 こんばんは。

今日、まだ空のままだろうなあ、と冷やかし半分に覗いてみたところ・・・

なんと、『心の中の冷たいなにか』 や 『ヴィラマグノリア』 などなど、

若竹さんの本が再び入荷されておりました!


そして勢いで一冊購入してきてしまいました・・・ 色々積んでますが;


買った作品は、本日紹介します 若竹七海さんの 『死んでも治らない』 です。

今回も杉田比呂美さんのイラストでござい。 よくみると、この男の人のシャツがイイ!


若竹 七海
死んでも治らない

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 元警察官・大道寺圭は、一冊の本を書いた。警官時代に出会ったおバカな犯罪者たちのエピソードを綴ったもので、題して『死んでも治らない』。それが呼び水になり、さらなるまぬけな犯罪者たちからつきまとわれて……。大道寺は数々の珍事件・怪事件に巻き込まれてゆく。
 ブラックな笑いとほろ苦い後味。深い余韻を残す、コージー・ハードボイルドの逸品!

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デビュウ作 『ぼくのミステリな日常』 で見せたように、若竹さんの構成能力は素晴らしい

どんなにアクロバティックな構成でも、無理なくタイトルへと昇華される構成になります。

本作も相当曲芸めいた構成ではありますが、見事に全ての話が一つにまとまっております。

読み終えて物語の原点に立ち返るという構成は、若竹さんならではの技だと思います。


どのような構成かというと、まず、軸となる一つの事件を6つに分け、

その間間に別な事件を挟み込み、ラストにもっていくという独特なものです。

個々の事件を読み進めるうちは、それぞれ独立した一個の話のように感じるのですが、

最後の最後まで読むと、サンドウィッチに串が一本刺さったかのような、

衝撃的な一貫性を感じることができます。

( サンドウィッチに串が刺さるのが衝撃的な一貫性かどうかは怪しいものですが; )


一貫性のある作品として読み返す楽しみもありますが、

もっと評価したいことに、個々の作品で感じられるキレのある後味!

怪しげな推理でうやむやになる事件は一つとしてありません。

まるで快刀乱麻を断つがごとく鋭い一言で事件が終る。 それが気持ちよい!!!


例によってハードボイルド・ミステリなわけですが、葉村晶のそれとは違うものです。

どっちが好きかと言われると、葉村晶のハードボイルドの方が好きですが、

今回のような元刑事という典型的なハードボイルドもおもしろかったと思います。

全ての魅力は謎の設定のうまさにあるかと思います。


冒頭で提示される女性の変死体という 「謎」、これが全編に渡って、影となり、付きまとい、
物語が進むにつれて徐々に徐々に明らかにされていく。

「謎の提示」 と 「引っ張る力」 両方がバランスよく書き込まれていたと思います。

読者は飽きることなく、また押し付けがましさを感じることなく、能動的に物語に没頭できます。


謎や内容についても何か言いたいくらいおもしろかったのですが、

何分作品の性質上、読後感想文も書けない構成ですので、何も言いません。


『ぼくのミステリな日常』、『スクランブル』、《葉崎シリーズ》 をお読みの方は是非購入を!

あの人物や、あの学校、あの場所が出てきます!

こういったところに若竹さんの遊び心溢れるサービス精神を感じてしまいます!


泡坂妻夫 『泡坂妻夫の怖い話』

    ただし、あまり見事な名推理を読まされると、かえって信憑性が薄くなるような気もする。

                                     ( 『泡坂妻夫の怖い話』 "永日" 地の文 )


探偵小説を読んでいると、理屈を越えた推理や、ともすると飛躍とも思える推理に出くわすときがある。

そういった推理に出会ったとき、何だか童心に返ったようなワクワクした気持ちになる。


例えばホームズやデュパンなど黎明期の探偵は、人を一目見ただけで、職業や性質、

その他様々な情報を読み取ってしまう。

推理小説ファンの中には、そういった超人技の不可能性を指摘する人もいるかもしれませんが、

最近、そういった超人技に楽しみを覚えています。


一目でワトスンが軍医であると見抜けるからこそホームズであり、

ボケーっとしている主人公が何を考えているか見抜いてこそデュパンなのですよね。

数ある選択肢の中から、必ず正しいものを選び、そこから論を進めていく、

アリストテレスの弁証法で言う、信ずるべき "善き" 前提を見抜く力こそ探偵能力なのかもしれません。


泡坂さんの描く探偵や推理小説には、その "善き" 前提を受け入れやすいような気がします。

《亜愛一郎シリーズ》は文体からは感じさせないけれど、とんでも無く複雑なトリックや、

奇抜極まりないトリックがまるでおもちゃ箱のように詰まっている。

それだけ雑多にも関わらず、読み終えてみてスッキリと気持ちよくいられるのは、

一重に泡坂さんが "善き" 前提を文中に散りばめているからなのでしょう。


今回紹介します 泡坂妻夫さんの『泡坂妻夫の怖い話』 にもそのような傾向がありました。


泡坂 妻夫
泡坂妻夫の怖い話

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夫の態度が急に変わったのは浮気、それとも?美人女優とキスした夢から喜んで目覚めると…!終電間際の駅で連続して死傷事件が起きた理由は?添加物に汚染されていない究極の自然食品を探したら…。ドキドキするような艶っぽい話から、ゾッとするような日常の恐怖まで、それぞれ鮮やかな手品のようにトリックを効かせたショート・ショート集。一日一話で一ヵ月を愉しむ全31篇。

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一日一話でがまんできる人がいるのだろうか、と思ってしまいます。

一日で、否、1時間半くらいで読み終えてしまうくらいおもしろいです。
豪華も豪華、短編でも通用しそうな面白さのあるショートショートが詰まりに詰まった一冊。


解説文にもあるとおり、男女の色恋ものから、怪談めいたものまで、

とにかく泡坂妻夫さんが怖いと思うものを集めたもののようです。


泡坂さんが怖いと思うものが、おもしろくないわけがない!と、

某本屋さんの検索機で見つけた瞬間、購入予約いれてしまいました。

そして、それが届いたという知らせを仕事中に受け、銀行への出張と称し、

仕事中に手に入れてきてしまいました・・・


そして、仕事後に企画されていた食事会をキャンセルし、

足早に家に帰り、これでもか!ってくらい読みふけりました。

女性・友人・仕事仲間 < 泡坂さんの小説

という図式が見事なまでに証明された瞬間でもあります。


というわけで読後感想文、31編全部は無理なので、とくにおもしろかったものだけを紹介します。



《読後感想文》


  解坂中腹

    事故の相次ぐ解坂には怨霊が取り付いているという噂が立った。

    主人公はその噂を検証するために、あらゆる調査を行い、ついに正体を見破る!

    そんな流れは期待通りなのですが、一筋縄ではいかないラストに驚愕

    そこに泡坂さんの良さがあります!


  ミュージシャン

    静蒼園に 「水谷さま」 という元華族の老女がやってきた。

    「水谷さま」 は世にも不思議なオルゴールを持っているのだが・・・

    水谷さまが髪に手をやるしぐさなど、泡坂さんの描く独特の色気を感じます

    艶やかとは言えないかもしれませんが、経年の衰えを見せない美しさがあります。


  階段

    ある駅で、最後に降りた乗客が階段から転落するという事故が多発した。

    新聞などの分析から、主人公は自ら最後の乗客となり、事故の検証をするのだが・・・

    今回最もゾッとした話でした

    これは恐ろしい、ゾッとするどころじゃなく、悪意に戦きました。

    今まで読んだ推理小説の中で、最も完全犯罪に近い事件だと思います。


  影人形

    スタント用の人形の視点から書かれた珍しい小説。

    読んでいるとなんとも言えない独特で艶やかな情景を目の前に浮かべてしまう

    泡坂さんの表現力とアイディアには毎回驚かされます。

    思わず生唾を飲み込んでしまった話。


  烏が

    三日連続で一万円札を拾う男性。団地に増えたカラス。

    何も共通点の無い二つが互いに複雑に絡まりながら一つの話へと成る。

    何と言うか、どす黒い悪意を見せ付けられたような話です。


  悪夢

    悪夢を見るとびっしょり汗をかき、前後不覚の状態に陥ってしまうことがある。

    この話では、その悪夢の後味の悪さが最大の魅力です。

    眩暈の起きるような悪夢、恐慌状態に陥る表現とか好きです。

  

  分身

    綾辻さんの 『眼球綺譚』 に収められていそうな、不思議な話。

    これを怖いと思うか否かは人によりけりだと思いますが、

    とにかくおもしろくて、読む手が止まりませんでした。


  牡丹記

    舞台は中国、若い男女が一目を忍び、逢瀬を愉しんでいたとき・・・

    とにかく、泡坂さんの描く女性と花との相性の良さは尋常ではありません


官能的とも言える、泡坂さんの筆は今回ちょっと刺激が強すぎたかもしれません。

読んでる最中、思わずドキッとしてしまう箇所がそこにもここにも。

一週間くらいかけて読もうと思っていたところだったので、

あまりにも早く読み終えてしまい、もったいない感じがしました。


なかなか長編の方は進みませんが、短編の推理小説をどんどん読んで行きたいかと思います。

どなたか泡坂さんの短編で、進めてくださる本があれば、ぜひ教えてください。

泡坂さん以外でも短編のおもしろいもの、どなたか教えてくださると幸いです。

近況報告

4月1日より仕事が始まり、ミステリを読む時間が制約されはじめたPです。 こんばんは。

通勤や出張のときは、チェスタトンの 『ブラウン神父の童心』 を読み、

寝る前には 島田荘司さんの 『占星術殺人事件』 を読んだりして、ミステリを読む心は持ち続けています。


さて、新しい職場で戸惑うことばかりでしたが、どうやら体質にあうらしく、

前の職場よりもずっと居心地が良いですし、なんだか働いていて生きる喜びを感じます。

出張やら、掃除やら、書類のチェックやら、全てが楽しくてしかたがないです。


とは言っても、初仕事で150枚の印刷ミスをするなど、初任ならではの大ミスをするなど、

なかなか賑やかな生活を送っているわけですが、そういったドジを踏むことで、

職場の皆さんとの距離が一気に短くなったように感じます。

いなり寿司やケーキなど、これでもかってくらい頂いております。


また、初勤務より一週間も経たないうちに結婚の斡旋をされるなど、

ありえない自体に翻弄されながら、毎日楽しく仕事を覚えています!



ネトミスについて

厳しい条件を満たすミステリ好きが2人、日を前後して応募してくださり、

現在会員5名で楽しく過ごせるような兆しが見えてきました。


金土日は飲み会などがしばらく続くので、会長Pはボロボロ状態なのですが、

会員さまは平日の10時~23時頃にログインできましたらよろしくお願いいたします。

ただいま会誌規約や同人規約らしきものを作成しておりますので、ご意見伺いたくおもいます。

( 発足およそ1年目にして規約を考えるというゆるさ加減 )


そんな感じで公私共にがんばりたいと思います。


泡坂妻夫 『亜愛一郎の転倒』

小説の人物が実在するとして、僕には憧れてしまう人物がいる。

それは、亜愛一郎。

あまりにも理想的過ぎて、まねするのもおこがましいくらいですが、本当にあこがれます。


雲を眺めるのが好きで、いつも自分の中の世界に浸っており、

周りの評価に左右されない、けれど、自然に対する礼儀として身だしなみは整える。

自分の中で世界が完結している・・・ 僕にはそう感じられます。


そして何よりも、ドジであることが美点の一つになっているところ!


僕も平生ドジな方で、今日も校門のロックの開錠の仕方がわからず、悪戦苦闘し、

挙句の果てに乗り越えるという荒業をしたところ、ばっちりと防犯カメラに映っており、

先に来ていた先生方にウォッチされてきたばかりですが、

何だか亜愛一郎を見ていると、希望がわいてくるのであります。


さて、今日紹介いたしますは 泡坂妻夫さんの 『亜愛一郎の転倒』 です。

《亜愛一郎シリーズ》 の第二弾であります!


泡坂 妻夫
亜愛一郎の転倒

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完璧な写実性で注目された画家の絵の中に見出される数々の不思議――手の指が六本ある少女、針の間違っている時計、開けられないドアなどは何を意味するのか? さらに一夜にして忽然と消失した合掌造りの家、タクシーの後部座席に突然出現した死体……等々、ちょっとした不合理から思いもかけぬ結論を導き出す亜愛一郎。快調の第二弾。

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先に島田荘司さんの 『占星術殺人事件』 を読んでいたのですが、

通勤や休憩時間に読んでいたこちらの小説を先に読み終えてしまいました。

例によって連作短編集なので、区切りをつけて読みやすいです。


泡坂さんの作品に多く見られるものとして、美との出会いがあるように思えます。

その美はただただ人物の美しさの描写にあるわけではなく、

絵や美術品、はては流れる川など自然物にいたるまで、

泡坂さんの小説を読んでいると一瞬の美に出会う瞬間があります


泡坂さんの美と言えば、『奇術探偵曾我佳城全集』 に収められている "空中朝顔" や、

『煙の殺意』 に収められている 『椛山訪雪図』 など、

鮮烈な視覚的な美と、それと密に関係したプロットの関係性が美しいわけですが、

《亜愛一郎シリーズ》 で見ることのできる美には日常的な美しさがあります


デパートの壁に埋まっていたアンモナイトの化石。

半石の奥に咲くオオタケタテクサの花。

スーツのすそをまくり、川の中に入る冷涼感。

作中にキラリと光る、日常の中の非日常的な美しさがあります。


そんな亜愛一郎の世界に不思議な懐かしさと居心地の良さを感じてしまいます。

というわけで読後感想文



《読後感想文》


  藁の猫

    章題からグッとくる話なわけですが、これを先頭に持ってきた泡坂さん、素晴らしい!

    とあるデパートで行われた展覧会、そこである犯罪を亜愛一郎が解決するのですが、

    その運び方が素晴らしい! 亜愛一郎っぽさが良く出た話でした。

    この話で一気に亜愛一郎の世界に引きずり込まれること間違いなしです。 まさにアニュトーリ。


  砂峨家の消失

    何となくポウの 『アッシャー家の崩壊』 を思わせる題名。内容は違いますが。

    相変わらず亜愛一郎の世界が展開されているのですが、

    本格的な雰囲気をかもし出す探偵小説風な話となっています。


  珠州子の装い

    この話の魅力は、なんと言っても会話にあると思いました。

    謎自体は前2編の探偵味あるものとは異なり、現実にありそうな謎なわけですが、

    最後の最後でくるりと変わる世界がカラクリめいていておもしろかった!


  意外な遺骸

    章題から想像がつくとおり、諧謔味ある話だったように思えます。

    もちろん事件性を考えるとそんなことも言ってはいられませんが、

    作品全体の雰囲気は遊び心溢れる作りだったと思います。

    あれ?何か引っかかってた!と思わず驚いてしまいました。


  ねじれた帽子

    これも秀逸な章題。クリスティの 『ねじれた家』 など "ねじ" の音が好きなのかも。

    泡坂さんの短編は章題にして全てを語っている場合が多いと思うのですが、

    この作品も章題と全体の内容が完全に結びつきました

    短編の醍醐味を味わえたような幸せな気分に浸りました。


  争う四巨頭

    好きです。もしかしたらこの小説で一番か二番に好きだったかもしれません。

    この話は 『亜愛一郎の狼狽』 に出てきたある人物が再登場しているのですが、

    その変わりように、それでいて変わっていない様に、泡坂さんの良さを見出しました。

    また謎も謎めいており、亜愛一郎の特性も充分に発揮されておりました


  三郎町路上

    探偵味、探偵味溢れる良作! しかし亜愛一郎と共に謎を追いかける響子博士。

    何故か 『乱れからくり』 の女流探偵・宇内舞子を思い出しました。

    2人の歯車のかみ合わなさや、響子博士の邪気の無さが思わぬ好印象!

    謎の方も探偵の介入を許す不可解な始まりなのでおもしろかった!


  病人に刃物

    これも中々おもしろかったと思いますが、巻末の話としてはパンチ力不足かもしれません。

    渋めなトリックが好きな方は絶対おもしろいと感じるかと思います。

    しかし泡坂さん、どうしてそんなに花をきれいに描けるのだろう?



こんな感じで、前作の好印象も変わらず、とても好きな大切な一冊になりました!


しかし、しかし! これからお読みになられる方は気をつけてください。

《亜愛一郎シリーズ》を心の底から最後まで楽しむつもりがあるのなら、

解説を絶対に読んではいけません! シリーズ最大の謎がネタバレされています!


それも解説者の独断により、「魅力が損なわれないと思うので明かしてしまうが」、と

まるで、誕生日ケーキのろうそくを横から吹き消すような悪逆非道ぶり!

ろうそくを誰が消してもケーキはおいしいだろ?と言っているようにしか思えない!

初めて解説者に怒りを覚えました。 田中芳樹さんの作品は今日を境に購入しません。


最後の最後でケチがついてしまいましたが、解説を読まない限り最高の一冊の一つです。

このブログを眺めてくださった皆さん、《亜愛一郎シリーズ》制覇してみてください!


追記(2006.5th Jan.):

  第2版の 『亜愛一郎の転倒』 では、巻末の田中氏の発言が削除されている模様。

  初版で集めようとしたことが裏目に出ました。

  ので、これから購入される方、安心してお読みください。


追追記:

  Bの情報によると泡坂さんは体調を崩されているそうです。

  いちにちも早く具合がよくなること、祈ります。


綾辻行人 『時計館の殺人』

    「館」シリーズはこれで五作目になりますが、ここに至っておぼろげながら、

    中村青司という建築家の顔が見えてきたような気がする―――

                                     ( 文庫版あとがきより )


十角館、水車館、・・・と続き、シリーズ五作目・時計館にて、

ついに館のアイデンティティが確立された感じがいたしました。

登場人物のみならず、綾辻さんの筆は、館そのものに強い自我を持たせてしまった感あり!


数々の難事件において見事なまでに騙されてきた明探偵 ぷろす ぺろう 。

奇跡的な導きにより、メイントリックと犯人を当てることができたもよう。

しかし!この時計館の良さはそんな些細なことにあるのではなかったー!


文庫で600ページを越える大作なのですが、その大作に見合った内容!

トリック―動機―場所、三つが合致した傑作だと思います。

その証拠に、読後に訪れる奇妙な現実感・・・ 時計館の物語が一気に思い返されます。

そして、シリーズ各巻通して行われる、館の解体・・・ 芸術の粋に入っていたかと思います!!

それが本当に素晴らしかったー!


個人的にかなりの大ヒットを感じた 綾辻行人さんの 『時計館の殺人』 です。


綾辻 行人
時計館の殺人

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館を埋める108個の時計コレクション。鎌倉の森の暗がりに建つその時計館で10年前1人の少女が死んだ。館に関わる人々に次々起こる自殺、事故、病死。死者の想いが籠る時計館を訪れた9人の男女に無差別殺人の恐怖が襲う。凄惨な光景ののちに明かされるめくるめく真相とは?第45回日本推理作家協会賞受賞。

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泡坂さんの 『乱れからくり』 に引き続き、日本推理作家協会賞受賞作。

綾辻さんは最高傑作と名高い 『霧越邸』 を脱稿したときに、

この 『時計館』 のメイントリックを思いついたそうです。


事件の舞台は鎌倉にある巨大な時計塔を備えた館、通称 『時計館』。

時を刻まぬ時計塔、そして館内に108ある時を刻み続ける時計たち。

話を聞いているだけで頭がおかしくなってしまいそうな館ですが、

さらに、この館に住まう人々を襲った相次ぐ不幸・・・


いつしか 『時計館』 には少女の幽霊が現れる、という噂が立つようになっていった。

その少女の幽霊の降霊会を行おうと、霊能者をはじめ、雑誌編集者、

そしてミステリ研究会のメンバーが集まったのであった。


なんとなく 『十角館』 の雰囲気をはしばしに感じる 『時計館』 ですが、

それもそのはず、「《館シリーズ》 は順番に読まないといけない」 という意味がよくわかります。

前作のネタバレはありませんが、順番どおりに読まなければ、この魅力は半減です。


依頼主の悪夢を現実化する中村青司の創造物 《館》 ・・・

これからどのような動きを見せるのか、『黒猫』 『暗黒』 が楽しみであります。


しかし、今回の《館》は最高に良かったと思います。

一読していただければおのずとわかるかと思います。

どうして《時計館》であったのか、その点が素晴らしかったー!


《館シリーズ》、順番に読み進めている方、これから読まれる方、充分期待してもOKです。

未読の方、『十角館』 からまとめて買ったらいかがでしょうか!